WHISPER NOT

さすがに「季語」のあるジャズは減ってきました。10月は「噂話」をテーマに揃えてみます。


WHISPER NOT
1956(Leonard Feather / Benny Golson) Karen Gray


Sing low, Sing clear
Sweet words in my ear


そっと歌って、でもはっきりと
優しい言葉で私の耳元に囁いて
嘆きの歌ではなく、愛の祈りを
歌を続けて、一度は潰えた愛の
ときめく調べが戻ってくるまで


一度は仲違いした二人だけれど
そんな昔のこと忘れて構わない
過ぎた出来事なんか囁かないで
今からでも二人の心は溶け合い
いつまでも歌い続けるのだから


永遠の愛などないという言葉に
どうして耳を貸したんだろう?
愛を壊そうと噂話は湧いてくる
でも立て直すことも出来るはず
天使の導く声に従いさえすれば


「良くない噂」など過去の幻影
それはただ残響が残ってるだけ
この憂鬱を追い払いたいのなら
その噂を心から拭い去れば良い
あなたの愛さえあれば大丈夫よ


Answer Cupid call。キューピットの呼び声に従うこと。つまり、他の人の言葉に耳を貸すから迷ったりするのです。人の噂話なんて、その人のストレスを他人に投げつけてくる悪意に過ぎないのだから。自分の、内なる声に耳を傾けること。どうでも良い「他の人」に良い顔をする必要なんかない。
1956年ジャズ・メッセンジャーズに所属していたベニー・ゴルソンが書いた曲。ひらめいてから20分で楽譜に書き上げたという。なのに『クリフォードの思い出』と並ぶ彼の代表作。メッセンジャーズのインスト曲として有名になり、1958年アニタ・オディが歌詞を付け歌った。

ベニー・ゴルソン自身の「ウィスパー・ノット」。1987年ゴルソン・クインテットのメンバーの豪華さ。トランペットがフレディ・ハバードで、ベースがロン・カーター


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18歳のリー・モーガン、戦慄のデビュー。ディジー・ガレスピーに見初められ、1956年ブルーノートから出した3部作。音楽担当にベニー・ゴルソンが入り、この「ウィスパー・ノット」をプレゼントしています。いじわるですよね。この難しい曲が吹けるか、と。そしてその難題に合格したリー・モルガン。この後ジャズ・メッセンジャーズに招かれ、クリフォード・ブラウンの跡を継ぐトランぺッターとして頭角を現していきます(試聴はこちら)。


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こちらもディジー・ガレスピーが発掘したウィントン・ケリーケニー・バレル。1958年に「ウィスパー・ノット」を自分たちの持ち歌にしています。軽快にスイングするケリーのピアノと、囁くように寄り添うバレルのギター。仲睦まじい。でもこの後、ウィントン・ケリーはマイルスに引き抜かれて、バレルの許を去っていくのです。ああ〜あ。


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ボーカルは渋くメル・トーメ。この大御所の歌をただのポップソングにしてしまわないのは、陰で支えているジョージ・シェアリングのピアノがあってこそ。1987年、すでにメル・トーメ61歳の作品。酸いも甘いも噛み分けた、永遠の愛を歌っています。


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「ウィスパー・ノット」と言えば、このキース・ジャレット復活ライブ。慢性疲労症候群でピアノを弾くどころか、ベッドから起き上がることも出来なかったキース。なんとかリハビリを続け、1999年に音楽活動を再開。きっと「良くない噂」もされたことでしょう。「そんな噂に耳を傾けないでほしい」という思いの「ウィスパー・ノット」。


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「二人の仲をいつまでも信じていよう」という、この曲のテーマに相応しいアルバム(もとは『Solo-Duo』というタイトル)。1964年コペンハーゲンに移住したケニー・ドリュー。そこで彼は18歳のベーシスト、ニールス・ペデルセンを見出しました。1993年ケニー・ドリューがこの世を去った後、30年間のペデルセンとの活動の中からソロとデュオの作品だけが選ばれています。「ウィスパー・ノット」の、静かなピアノの囁きに耳を傾けてみてください。