スティーヴ・ジョブズの3つの言葉

一つの時代が終わった。スティーヴ・ジョブズ享年56歳。


・For the rest of us

ジョブズの言葉を3つほど挙げてみようと思う。一つ目は「For the rest of us」。1984年、Macintoshが発売されたときのキャッチフレーズだ。「私たちの残りの人たちのために」。「残りの人たち」というのが何かは、そのとき出されたCMを見れば分かると思う。時代は「大型コンピュータを扱う人」と「そのコンピュータで管理される人」に分かれつつあった。Apple IIで「パーソナル・コンピュータ」というジャンルを打ち立てたアップル社だったが、それでもコンピュータはパーソナル(個人的・人間的)な存在にはほど遠かった。プログラミングするツール。でもそれが、個人と何の関係があろう? コンピュータは人を管理する道具ではない。仕事の道具でもない。知的な自転車である。人間の知性を加速するための、創造的な乗り物。そのためにMacintoshは開発され、より生活に密着したワープロやペイント・ソフトを搭載した。「残りの人たち」が、これから現れてくる管理社会と闘うために。


・Think different

ジョン・スカリー社長にアップルを追放されたジョブズは、その後NeXTを開発し、映画のピクサー社を立ち上げた。その間アップル社は他のメーカーにMacの互換機を作らせる戦略を取っていたが、これが市場での低迷を招き、経営も危機に瀕していく。そこでジョブズが再度アップルに召喚される。1997年ジョブズは訴える、「これまでとは違った考え方をしよう」。考え方を変えれば、世界も変わる。翌年ボンダイブルーiMacを発表。それはフロッピーを捨て、パラレルポートを持たず、ディスプレイがそのままパソコンになっている、誰も見たことのないマシンだった。大ヒットし、アップルは息を吹き返す。もっとも、その後の花柄や水玉は、あまりにディファレント過ぎたけど。


・Stay hungry, stay foolish

2005年、スタンフォード大学で行ったスピーチ。膵臓ガンが発見され、その手術を受けた後、大学を卒業する若者たちに贈られた言葉。「手術は成功し、健康面に心配はない」と言い切っているが、それは表向きの話だろう。「貪欲であれ、愚かであれ」。このスピーチは、自分の死を意識しないと出てこない。これまで積み上げてきたものではなく、これからのこと。生きているうちに実現したい自分の夢。夢見るものを他の誰も産み出せないのなら、自分自身がやるしかない。それがどれほど愚かなことであろうと。この後アップル社はiPhoneを発表し、iPadを世に送り出す。究極のWYSIWYG。見たままに誰もが使える知的自転車。彼は最後まで「For the rest of us」の理想型を追い求めていた。


その「夢」はこれからも続いていく。ジョブズさん、あなたと一緒に夢見ることがもう出来ないのが、僕はさびしいです。R.I.P.