enchantMOONは「これからのタブレット」になれるだろうか

まずは、この動画を見てほしい。



「なんだ、このプロトタイプは? 開発中のOSか何かか?」と思われるかもしれない。1968年にアラン・ケイが発表したGRaILというシステムです。ペン入力でコマンドを書き、それを線で繋ぎ合わせることでプログラムにしていく。すごい発想だし、すでに実現しているところがさすがアラン・ケイだと唸らされる。しかも、半世紀前。
しかし、コンピュータの歴史は「こちら」には動かなかった。いや、そうだろうか?


enchantMOON価格決定プロセス / "新しいコンピュータ"が39,800円である理由 - UEI shi3zの日記
 4月に予約受付開始と価格を発表すると言ってましたが、ついに正式な価格が決定しました。究極の手書き入力タブ...

本日、正式発表になったenchantMOON。次世代型タブレットとして注目されていたデバイスです。システムはAndroidのカスタマイズ版。しかし、Androidではない。これ自体が新しいOSの提案になっている。手書き文字を認識し、それを丸で囲むと保存したり、ネットで検索したりできる。書いたものがそのままデータとなり、データがそのままプログラムになる。日本から発信する「新しいタブレット」なのです。


http://m.youtube.com/watch?v=QI8mFnlkj5E

enchantMOON ; The Hypertext Authoring Tablet
Volume 3Volume 2Volume 1日本時間 4月23日 正午(12:00)からこのページで予約受付開始 (C)2012 Ubiquitous Entertainment Inc.(C...

しかしダメだよなあ、と思うのは、このコンセプト・ムービー。拘束された人々の食べているリンゴは、もちろんAppleです。縛られたリンゴと、窓の向こうの自由な月。この対立図式にあるのは、Appleの管理主義への恨みに似た感情。なんか、ちっちゃい。
なぜこんな「ちっちゃさ」になるのか訝っていたら、『SoftwareDesign』でenchantMOONの連載が始まりました。高い雑誌なので、すみません、立ち読みしました。


Software Design (ソフトウェア デザイン) 2013年 05月号 [雑誌]
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技術評論社 2013-04-18
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正規表現について詳しくなる特集付きですけど、enchantMOONの清水氏の連載。目指してるところが「ハイパーカード」なのか。ああ、分かるわ、その気持ち。昔AppleMacintoshに魅了された人たちが、何に魅了されていたかというと「ハイパーカード」です。カードに図や字を書いて、そのカードを繋ぎ合わせると、手軽にプログラムが作れた。そのハイパーカード。初めは人が作ったものを「見てるだけ」の人でも、それを触っているうちに「作る人」になる。考えてみると、これがGRaILの末裔だな。
ところが、いつからかハイパーカードが無くなった。「見てる人」と「作る人」の間に壁が出来た。iOSに至っては、アプリを作るためのSDKに一万円の会費を払い続ける必要があります。気軽に何も作れない。作りたくても、始めるための初期費用が高くつく。


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そのために清水氏が作ったのが、enchant.jsでした。Javascriptだけでゲームが作れるシステム。誰もが遊べて、誰もが作れる。「見てる人」と「作る人」の壁を取り壊す作業です。ここのサイトには、個人投稿のゲームがいっぱいあり、上手い/下手があります。何も切り捨てない。下手の人は下手な人なり、作っているうちに上手くなる。それがプログラミングです。その「作ること」の楽しさをもう一度、ユーザーの手に取り戻す。
http://wise9.jp/


http://m.youtube.com/watch?v=dYfxWgn4-WY
きっとその延長が、今度出る「enchantMOON」なのでしょう。コンセプト・ムービーの「ちっちゃさ」は、そこにAppleの「1984」へのオマージュが込められているからと思います。企業主導の管理主義に取り込まれた人々に、今一度「自由」への道を切り開く。
けれど、そう言っていたAppleがなぜ管理主義化してしまったか。それを考えないと、enchantMOONも「失敗」に終わるでしょう。やはりそこに「ユーザーからの要請」がある。デバイスは、使いやすければ使いやすいほど「子ども」が使うようになる。「子ども」が使えば、安全面に気を使う必要が出てくる。安全面に気を使えば、浅いところで終始し、クリティカルなところに触れない防壁を用意することになる。すると、ユーザーは「子ども」のままで成長が止まってしまう。何か困難にぶつかると「子ども」は自分を被害者と思い、他者に向けて「保護」を一方的に要求するようになる・・・。
うーん、なんかAppleの話というより「日本の現状」のような気がしてきました。「作る人」が減って、「見てる人」が声高に不満ばかり呟いている。こんな風に「不満」を書くこと自体が、その上塗りになってしまうから、ほんと根深い問題だな・・・。


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結局、こういうのを乗り越えるには、そもそもそんなことを気にせず、どんどん「作る人」になれば良いんでしょうけどね。iOSのままでも、MyScriptsとかでプログラムは組めるんだし。DraftPadのアシストだって、まだまだアイデアは残ってる。
・・・でも確かに「ハイパーカード」に値するものが欲しいかな。
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