【Textwell】縦書きは「書く発想法」である Vertica

日本語の持つ不思議モード。それが縦書き。上から下に文字が流れていく。漢文の書式を流用してはいるけれど、漢字が一字ずつ個体化しているのに対し、平仮名は崩れて下へと流れる形態を持っています。たなびくスラーによって構成された音楽が鳴り響く。


接続する縦書き

これはデジタルでの再現は難しい。江戸時代の地本を見ても木版に直接書き崩した書体を刻み込んでいて、決して一字ずつ分解して捉えてはいません。言葉を単位としているのであって、文字が単位ではなかった。活版印刷は伝播していたものの、アルファベットとは比べられないほど膨大な数の活字を必要とする日本語では定着しませんでした。

それが明治に入り、新聞の普及とともに活字単位の文字認識へと変容していきます。学校教育が五十音順に書字を覚える学習法を使用し、日本人の目は文字単位に変わる。それが可能になって横書きが普及し、算数や理科など「理系」と認識される教科に採用される。数式が欧米の書式に合わせ、横書きになっているからです。日本人の「理系/文系」の分類は国際的には通用しませんが、それはこの教科書の書式に端を発するからでしょう。


stone

stone 1.0.1
分類: 仕事効率化
価格: \3,000 (Nippon Design Center, Inc.)

Mac用に開発された縦書きエディタ。日本語で書くことを追求した執筆ツールです。コードを書くためのものじゃないですね。文章を綴るためのものです。視覚的なディスアトラクターを減らし、画面上の文章に集中する。そのための仕組みが組み込まれています。

旧来の、たとえばOmmWriterのようなフルスクリーンエディタを洗練し、それを縦書き対応にしたものと言えば良いでしょうか。縦書きというと原稿用紙を背景に置くタイプもありましたが、原稿用紙で原稿を書くことなんて今はなくなりました。小学校で感想文を書くのに使うくらいでしょう。あれは新聞小説を書く際の文字数を測る道具であり、教育的な機能はどこにもありません。文字数に囚われるだけ。句読点も本来日本語には存在しない。

和紙にさらさらと書き綴る。stoneは日本語の持つ言霊を振り動かす環境を作り出しそうです。なかなか着眼点がいい。でも気になっているんですが、「Macで書く機会が最近めっきり減ったよなあ」と思うと躊躇が湧いてきて、実は購入には至っていません。

(・・・まず、アイコンが違うだろう、と思ってしまったからか。縦書きが売りなのに、なんでまた横書きの印影をアイコンに採用しているんだろう?)

  • stone(ストーン) - 書く気分を高めるテキストエディタ

  • Vertica

    Textwell 1.8.4
    分類: 仕事効率化,ユーティリティ
    価格: \360 (Sociomedia)

    何しろ執筆はおもにTextwell。通勤中にiPhoneで下書きし、家に帰ってiPadで推敲する。そういうシフトになっています。縦書きにはVerticaという自作アクションがある。前は「プレビュー」に分類していましたが、いやいや決してそのようなものではありません。

    Import Textwell ActionVerica


    Vertical Writing

    Verticaはエディタなのです。縦書きのまま文章を綴ることができる。

    ちょっと嘘をつくと、縦書きになるとアイデアの出方がいつもと違う。日本語としてより丁寧な言い回しが出てきます。これまでの人生において縦書きで読んできた文章が、身体の内側で活性化し始める感じでしょうか。言葉に艶が出てくる。積み上げてきた「言葉システム」が作動し、先人たちの亡霊が指先を通して想い想いに文章を生み出していきます。

  • Textwellを縦書き表示すると文明開化の音がする Vertica

  • まとめ

    指三本で下方向にスワイプするとUndoになります。これが少し意外な感じ。最初は従来通り、スライドカーソルと同じ方向、つまり下方向が「進む」で上方向が「戻る」でした。これに合わせると上方向が「時間を戻す」になり、そこにUndoを割り当てていた。

    ところが違和感があるのです。「さっきのはナシ!」としたいとき、指は「上」には動かない。下に振るほうが「取り消し」っぽく感じます。左右のシンボリズムと上下のシンボリズムとは食い違っているらしい。空間図式が異なる。「下」が「過去」なのです。すると、縦書きは「過去」に向かって進むのだろうか。

    今回それが収穫でした。縦書きには重力が関与している。書き綴ることが「落下」として捉えられているのかもしれません。決して「未来」を目指しはしない。円環的な言語。