アウトライナーで書くということ

アウトライナーとは何か

WorkFlowy 1.2.10
分類: 仕事効率化,ユーティリティ
価格: 無料 (WorkFlowy)

アウトライナーはアウトラインを書くツールではない。アウトラインを作るためのツールである。どういうことか。論文を書くために概要を先に書き、そのあとそれぞれの項目を細かく説明していく書き方で使うと、これは面白くならない。覚えなきゃいけない理論や用語が散りばめられ、それに注釈を付けているにすぎない。まるで下手な授業を聞かされるように退屈だ。何も新しいものが出てこない。

そうではなく、まず文章を書き殴るのである。書いて書いて書き進んでいくと、結果としてそこにアウトラインが浮かび上がってくる。最終産物が「アウトライン」になるのがアウトライナーなのだ。このアウトラインに少し手を入れると、今まで見たことのないようなシロモノが出来上がる。だから楽しい。自分も知らないことをアウトライナーは知っている。それを教えてもらうためのツールとして使うとき、これは威力を発揮する。


どう書いていくか

アウトライナーの書き方は、知恵袋である。質問者が自分で、回答者も自分である。まず最初に、気になるところを書く。質問を置く。無難なところでは「〜とは何か」といった定義から始めると良いだろう。それをトピックに置き、その下位トピックに回答を書いていく。一行ずつトピックを区切っても良いが、最近は段落の塊ごとに改行することにしている。一段落をザパッと消してしまうと、論理が心地よく飛躍するところを作れるので、あとで読むときリズムが良い。飛躍は読者のイマジネーションを掻き立てる効果があるので、多用は禁物だが、皆無であると息苦しくなる。これが次の発想のタネになる。

回答には、一段目は普通のWikipedia的な答え方が良いけれど、二段目や三段目は少し実験をする。身近な具体例で考えたり、似ているものに喩えながらメタファーを使う。思考に回り道をさせることで、自分の想定の外部が介在する機会を作る。頭で考えていると見落としが生じやすいので、具体例を使うことで「身体の知恵」を借りる。メタファーを使うなら、メタファーの対象にどれくらい無理やりこじ付けることが出来るか試す。

たとえば「アウトラインを作るとは家を建てるようなものだ」と無茶を言う。無茶を言ってから、辻褄合わせをする。この喩えだと、アウトラインから書こうとすることが、家を屋根の部分から作ることと同じくらい不自然なことだと気づく。家を作るなら、まず地面に土を盛り土台を固めるところからだろう。柱を立て、壁を塗って、その上に屋根を置く。文章を書くのも同じで、最初の書き始めるのは土台の部分というわけだ。そうして材料を集め、組み合わせてアウトラインが出来る頃には、家自体も大半が出来上がっている。

おやおや。完成してしまったら、アウトライナーではないなあ。だとしたら、アウトライナーでやることは家の模型を作るところだろうか。そのほうが自然かもしれない。必要な柱の本数や位置関係を模型で確認する。それがアウトライナーである、と。すると模型を作るとはどういうことか、と新しく疑問が湧いてきて・・・。


回答は疑問を産む

「〜とは何か」に答えると、その答え自体が疑問を含んでいる。そこが次のトピックとなる。疑問がよく見えない場合は、だいたい三種類の疑問で代用できる。「それは何か」「どのようにそれをするのか」「それをするとどうなるのか」。英語で書けば、what, how, why。 この3つは、どんな回答に対しても見つけることが出来る。ひとの揚げ足を取るとき必要なテクニックだ。現実と言葉の間には常にズレがあるので、そこを突くとマグマが噴き出す。まだ言葉となっていないものが地表に湧き出してくる。

トピックに疑問を書き、その下位に回答を書く。回答を初心者の心持ちで読み、浮かんでくる疑問を改めてトピックにする。そしてまた、その下位に回答を書く。これを繰り返していく。だいたい、一日1トピックだけにしていると、日によって回答トピックのテンションが違う。体調が違うし、その日の経験の内容も違う。夜書くと内容が凶悪になるし、朝書くと飛躍が甚だしい。そういうのを材料として集めていく。


するとどうなるか

書く行為には一貫性はない。書き始めたときには思ってもなかったことに、書き終わったときには辿り着く。それが書く行為の妙味だ。読み手には3分あれば読める分量であっても、書き手は3日掛けて書いていたりする。込められている時間の量が書き手と読み手の間では異なっている。出だしの文章から最後の締めの言葉までの間に、朝が来て夜となり、ネットで動画を見たり、本屋に立ち読みに行ったり、9回食事したりしている。グワワッと経験が変化しているのである。ずっと無意識には、今書いていることのテーマが自動演算されていて、次々に面白い着想が浮かんでは、記録する間もなく忘却される。

その結果を掬い取って「アウトライン」となる。一貫性があったら不思議だ。なのに、最後のところでいろいろ書き足し、トピックを並び替え、一貫性があるかのように振る舞う。これがアウトライナーのもう1つの効果であり、新しい人格が介入しているようで面白い。


まとめ

実はいま、マニュアルめいたものを書いていて、これが全然面白くならない。なぜかというと、書くべき項目としてアウトラインが先に決まっているからだ。こういうのは、新しい疑問が介在し、もとの論旨を歪めていく醍醐味を最初から切り捨ててしまっている。自分の時間を費やして文章を書くなら、僕自身も知らないようなことを書きたい。

で、Q&A形式にフォーマットを変えてWorkFlowyに落としてみたら、疑問が疑問を産むスリリングな展開になってきて「いやあ、題材じゃないよなあ。メディアがマッサージだよなあ」とか思いつつ、かといって最後はマニュアルっぽい形式に落とし込まなきゃいけないので、せっかくの思いつきをブログに書き留めてみた次第です。